どうも、ぐっぴーです。
Onceの2ヶ月にわたる稽古場での日々を終え、間もなく日生劇場に小屋入りします。
日生劇場といえば、私が初めて商業演劇に出させていただいた劇場です。
演目は『ビッグ・フィッシュ』(東宝)。
ある男の人生を彼の夢と共に綴る物語です。
神秘的な物語が、貝殻が敷き詰められたような日生劇場の空間と混ざり合い、素晴らしい作品となりました。
大きな舞台に出たことがなかったため右も左もわからず、がむしゃらに立ち向かい、千秋楽の夜に高熱が出たことが懐かしいです。
ビッグ・フィッシュ以降、日生劇場作品への出演はなく、なんと8年ぶりにこの舞台に立たせていただきます。
8年というと長い期間に思えますが、あっという間でした。
日本で沢山の舞台に立たせていただき、コロナが流行り、一度舞台から離れたまた再び舞台に舞い戻りました。
嬉しいことも悲しいこともあったなあ。
色んなことを経験した今だから、また日生劇場に立たせていただた時にあの頃とは違う感覚を得られるのでしょうか。
楽しみです。
Onceの話をします。
私は本作を2012年にBroadwayで観劇しています。
確か、初めてNYに行った時のことです。
あの時はのちにNYに2年住むことも、また日本でOnceに出ることになることも夢にも思わなかった。
本当に人生って何があるのかわからない。
正直なところ、Broadwayで見た舞台の内容は断片的にしか覚えていない。
セットが茶色で、ボコボコしたブロックの木を使った舞台美術をしていたかなあ。
冒頭から役者さんたちが楽器を演奏しながら登場していたのも覚えている。
確か、演奏していた曲はNorth Strand
代表的な劇中歌であるFallingSlowlyの演出は全然覚えてない。 なぜ!大好きなのに!
いえ、覚えていないことも、また良いのかもしれない。
もしも、記憶にあったら、それをなぞってしまうかもしれない。
今回のOnce日本上演では、音楽はそのままに、 演出に稲葉賀恵さん、翻訳・訳詞に一川華さん、振り付けに小野寺修二さんを、 そして我々日本人キャストでお届けします。
稽古はトライアンドエラーの連続。沢山作って壊しての繰り返しで、刺激的な日々。
近年、私は海外ミュージカル作品への出演が主で、演出や振り付けなど全て決まっているものが多かったです。
俳優なので、勿論そういったワークも大好きなのですが、今回のような創作の現場こそ、自分が好きなことなんだなあと改めて思いました。
Onceは色んなテーマをもつミュージカルですが、その中で一番真ん中にある太い幹は、音楽です。
稽古場最終日、演出の稲葉さんを囲み
「みんなにとって音楽とはどんなものか?」
を、語り合いました。
私にとっての音楽を語らせていただくと、
私は、音楽家のもとに生まれた者でもなければ、音楽の英才教育を受けたわけでもありません。
それでも、いつだって音楽は身近にありました。
中学で演劇部に入り、中3の冬にダンスを習い始めました。
自分が歌いたいとか、実は当初思ってなかったけど、
表現をする上でいつだって音楽がそばにあったし、
ダンスのキャリアから始めた自分としては
踊りも歌うことも、そこに差は全くないんです。
ツールは違えど、歌も踊りも表現であるから、変わりがない。
そう思うと、音楽とはずっと一緒に生きてきているのかなあと、思ったりもします。
最近は趣味でピアノを再開しました。
クラシックピアノのすごいところは、自分と生きた時代も、国も違う誰かの曲を 時空を超えて受け取ることができること。 これってすごいことだと思う。 練習曲のハノンもチェルニーも、いま取り組んでいるバッハの曲も
彼らが楽譜に書いてから、沢山の人に演奏されて、そして、今ここにいる私もピアノに向き合って音楽を奏でている。まるで遠い宇宙から、何年もの時を超えて、彼らからの手紙を受け取っているかのようです。
また、Onceには人として生きることの普遍的なメッセージが散りばめられています。
描かれている舞台は日本とアイルランドで違えど、遠く離れた国の人たちも私たちと同じように喜びを分かち合い、過去に思いを馳せるのだと実感しました。
私が思い出すのは、やはり今年他界した祖父母のこと。
おばあちゃんに贈られたものを身につけて彼らのことを思い出すと、優しい気持ちになる一方で、どうしようもない悲しみも湧き上がります。この心にぽっかりと空いた穴がいつ塞がるのか、まだ見当もつきません。
生きとし生けるものにはいつか終わりが来ることは頭では理解していたつもりでしたが、実際にその日を迎えると、人生観がまるごと変わってしまうほどの衝撃的な出来事でした。
Onceは、そんな自分を優しく慰めてくれるように感じます。
演出の稲葉さんがおっしゃった言葉『この物語に出てくるすべての人は、きっと心のどこかに穴を抱えている』
生きていくことには大変なことも多いけれど、それでも健気に前へ進む登場人物たちに、自然と私の心は救われたのでしょう。
きっと、この作品を観に来てくださるお客様の心にも、温かく優しく響く作品になると思います。
私は今、実家で父のレコードを聴きながらこのブログを書いています。

いつか、どこか遠い場所でBill Evansの曲を聴いたとき、今日このブログを書いていたことを思い出すのかもしれません。
ぐっぴー/樋口祥久
